次の年度に受け持った生徒は、中学校に入学したばかりの1年生でした。
この学年は、2組編成になり、40歳代後半のベテランの先生と私が、それぞれの学級の担任を受け持ちました。
中学校には、校区の2つの小学校から入学してきます。
でも、小学校は違っても、素朴な生徒たちなので、直ぐに打ち解けて仲良しになりました。
中学校では、部活動での繋がりが、そういう状況を作っていったのかもしれません。
中学校に入ったばかりで、中学校生活も分からないことが多く、あどけない生徒たちでした。
1ヶ月間は、出席簿のトップの生徒を仮の級長に選びました。
1ヶ月が過ぎた頃に、級長を選ぶのは投票で決めました。
級長に選ばれた人物は、H君でした。
副級長は、前年度受け持ちだったTさんの妹のEさん(第12話の「思春期」で出てきた優しくお淑やかな生徒です。)になりました。
H君を皆が選んだのは、お人好しで明るく話好きなので、分け隔てなく皆と仲良くなっていたせいだと感じました。
5月の家庭訪問で、お母さんが、「普通、級長さんと言えば、成績が良く出来て皆の模範となるリーダーがなるべきなのに、あの子は、おっちょこちょいのあわてんぼうで、皆に迷惑をかけないと心配です。」と言ってみえました。
私からは、「皆と仲良くできる人物として選ばれたのだと思います。」と応えました。
彼は、級長になってから積極的になってきました。
授業中も、入学1か月間と比べものにならないほど、質問や発言を繰り返すようになりました。
朝の授業の始まり前にも、私の所に来て、「皆に伝えることはないですか。」とお伺いを立てるほどになりました。
1学期の成績を話す保護者懇談会では、お母さんから「小学校は中ぐらいの成績でしたが、こんなに5が増えて」と喜んでいました。
積極的になったことを伝えると、「我が家でも、手伝いもするようになり、こちらの思いにも気遣うほどになりました。」と言ってもえらえました。
後期は、違う生徒と級長を交替しましたが、級長の先輩らしく新しい級長を指導もしてくれていました。
勿論、授業中も前とは変わらず積極的に取り組んでいました。
先生を目指した彼は、今では、三重県のある公立高校の管理職になっています。
何かのきっかけで、生徒は自覚したり、責任感を持てたりと、好転するという姿を、見せてもらった気がします。